わたしには年の離れた兄と年の近い兄がおり、子供のころから仲良く暮らしてきたつもりなのですが、相続に関しては不安はつきません。
もともと、年の離れた兄は長男として優遇措置がとられていた存在だったので、わたしが高校生になるまでは、兄が結婚したら家を出ていかないといけないけれども、多少、何らかの相続は期待できるのではないかと思っていました。
ところが、兄が付き合い始めた彼女が母子家庭で、彼女のお母様が彼女が女手ひとつで誰の力も借りず立派に彼女を育て上げてきた苦労人だということと、さらには、理想としては、婿養子が欲しいということを知り、わたしの未来に光が差したような気がしたのです。
それからというもの、彼女とより仲良くなって、お姉さんになってほしいとアピールするようになり、兄が彼女と付き合いやすいように、一人暮らしをしたがっていたことも知っていたので、兄の独立を応援するようになりました。
何故なら、子供のころから地味で人見知りだったわたしは、どなたかと結婚して過程を築くという妄想を抱く余裕もないほど奥手で、手に職を付けなければ餓死するだろうと思っていたので、できることならこのまま祖父母と両親と親戚の住むこの家にずっと居て、老後は慎ましやかに暮らしたいという夢がかなうのではないかと希望を持ってしまったからなのです。
幸い、年の近い兄は次男坊として甘やかして育てられたためか、気が弱く強めのマザコンで、妹のひいき目で見ても地味で面白味もなく何の特技もとりえもないつまらない男だったので、わたし同様、仲良く売れ残るだろうと思っていました。
仲も良かったので財産分与でもめることもないだろうと思い、長男の結婚を後押しすべく、陰ながら応援することに集中しました。
そんな努力が実ったのか兄と彼女の結婚が決まり、戸籍上、一端兄の籍に入り、兄と彼女が彼女の家に養子になるという結果となりました。
結婚後も、あまりしっかりしていない次男坊の兄のことを心配していたようで、相続は放棄するからわたしに家のことは頼むとよく言ってくれていたこともあり、兄妹でもめることなく、これでわたしは家にずっと居られると思い、祖父母と親に孝行しながら就職した矢先、次男の兄から信じられない言葉を聞いたのです。
たまたま知り合った女の子と結婚したいが、独立する自信が無いので、結婚後は同居したいということと、女の子とわたしの同居になると手狭になる上、気まずくなるので、できれば出て行ってほしいとの震えるような声に、わたしの怒りは頂点に達しました。
祖父母や両親の介護すらせず、仕事も男のくせに中途半端で、家事ひとつやることなくわたしに甘えていた兄を、あたたかく見守ってきたつもりだったからです。
大好きな祖父母と両親と一緒に暮らせるならと、進学も就職も行きたいところではなく、近い所を選んできたり、小さな夢がかなうならと謙虚に生きてきたつもりだったのにと思うと辛く悲しく、なんとも言えない気持ちになったのですが、怒りを抑えてなんとか打開できないか、まずは女の子と会ってみることにしました。
兄とは正反対で気の強そうな女の子だったのですが、社会経験が無いので専業主婦になりたいという希望があり、一人っ子なのでいずれは自分の親と生まれ故郷で暮らしたいという希望があるとのことを聞き出したわたしは、この女の子と仲良くなり、兄を結婚させればわたしが家に残れるのではと思うようになったのです。
家事ができないというその女の子に、何でも手伝うからと言い続け、兄との結婚後にも料理や育児の手伝いまでするようになりました。
本当の姉妹ではないかと周囲から言われるようにまでなったのですが、うちの両親とは上手くいかないらしく、近所に家を構え兄と可愛い姪と甥とその女の子の4人で暮らしてくれています。
ただ、兄が震える声でわたしに放った言葉はわたしの脳裏から離れることはなく、たいした財産なんてない家ですが、わたしに不利がないように常に油断しないように目を光らせています。